遠すぎる君
岸田先輩はしばらくすると私に歩調を合わせてくれた。

純粋に「助かった」と思った。

小走りで家まで帰るとなると
運動不足の私にはほとんど拷問だ。

「歩くの早いな、俺……」

「あぁ…先輩は足が長いからですよ。」

「お~だよな!すまんすまん。」

「嫌味ですかぁ?」

軽く睨んでやった。

「俺、余裕がなかったから…ごめんな。」

うん?と思うのと同時に目の前に差し出された小さな紙袋。

「誕プレ」

歩きながら目の前にある紙袋を見た。

「えぇ?今パスタご馳走になったのに!」

先輩は頭を掻きながら
「たいしたもんじゃないから。
俺バイトしてないし。
昨日用意したけど何がいいかわからなくてさ……」

いつもと違い、自信無さそうに小さな声でそう言う先輩は小さく見えた。

そんな先輩の気持ちを無にしちゃいけない。
それに私は嬉しかった。
たかが誕生日にこんなに祝ってもらって。


「すいません。」

受け取った紙袋から先輩の暖かさが伝わってきた。

「本当にありがとうございます。何から何まで…」

「中田は礼儀正しいな……」
と、苦笑いした。

それからは先輩はとくに喋ることもなく
家の近くの信号待ちをしていたその時
先輩は大きく息を吸った。


そして明日の天気を話すように
前を向きながらこう言った。


「俺と付き合ってくれない……かな?」
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