遠すぎる君
昨日岸田先輩からもらった小さな紙袋の中身は
淡いピンクのシュシュがひとつ。

気を使わないようにしてくれたみたい。
高価なものなんて受け取れないし。
その気遣いが嬉しく思う。
本人は「お金がない」って言ってたけど。

雑貨屋にあのイケメン先輩が一人で買いに行ったのだろうか。

岸田先輩なら女の子に混じっても
さらっと買い物できる気がする。

遼なら私が隣にいてもアタフタするだろうなぁ

遼の慌てた顔を思い浮かべて
クスッと笑った。

「お~中田、楽しそうだなぁ。聞いてたか?
それとも彼氏の事考えてたかぁ~」

先生の声にハッとして周りを見ると
注目を集めていた。

恥ずかしぃ……

顔が熱くなるのを感じて下を向き

「すいません……」

真紀ちゃんがそんな私をじっと見ていた。


ホームルームが終わるとすぐ机の横に影ができる。

真紀ちゃんが立っていた。
早苗ちゃんもその後ろで困った顔をしている。

「さぁ~吐いてもらうわよ~」

キャラ変わってるし……

真紀ちゃんが怖いので「わかりました…」と
観念した。

「まず、一昨日早苗ちゃんに貰ったクッキーがあまりにも美味しくて……」

早苗ちゃんが「キャッ」と目をキラキラさせている。

「先輩方にも食べてもらいたいなぁと部室へ行くと岸田先輩だけがいて」

フンフンと二人は頷く。

「クッキーの袋の中にメッセージいれてくれてたんだよね?」 

「メッセージ?あぁハッピーバースデーってのね?」

「それで誕生日が先輩にバレて、昨日は一日遅れの誕生日祝いってことでパスタをご馳走になりました。」

「それだけ?」

「う、うん。それだけ!」

ふぅ~ん……と真紀ちゃんはちらっと私を見たけど

「ま、いいでしょ!」と笑った。。

私はホッとしたが

「岸田先輩にコクられたかなぁと思ったんだけど……」

一気に血液が顔に流れ込んだみたいに熱くなる。

「図星~」

「え?しおりちゃん本当?」
してやったり顔の真紀ちゃんの横で
早苗ちゃんは驚いていた。

「で!付き合うことにしたの?」
真紀ちゃんは攻める攻める。

「いや、それは……」

「ん?ダメなの?岸田先輩……」

「まさか!とんでもないよ!」

「彼氏いないなら、付き合ってみればいいのに」

「なんか、あまりにも突然で……」

何度も喫茶店に来てくれたから
おそらく気に入ってはくれてるとは思っていた。

私もイケメンの先輩に可愛がられて
嬉しくないわけがない。

でも……彼女になるにはまだ抵抗があった。






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