遠すぎる君
その夜、岸田先輩から電話がかかってきた。
いつもメールなのに珍しい。

帰宅後、洗濯物を取り込み、
簡単に夕食を作って一人で食べ、
シャワーを浴びるまで二時間足らずで終えた。

ホッとしてテレビでも見ようかと思っていたら着信。

すごいタイミングがよくてビックリした。

「あの後、あいつどうした?」

開口一番それですか?とは思ったけれど
先輩の心配もよくわかってるので素直に答えた。

「お茶飲みに行きました。で、景子先輩のメールが入って……」

「あ、それオレオレ」 

「え?岸田先輩からのメールだったんですか?」

「そうなの。その後は?」

「慌てて飛び出していきました。」

おぉ~と嬉しそうな声が聞こえる。

「あの~話が見えないんですけど……」

電話の向こうは笑いが収まらないようだ。


「ククッ…よーしよーし。フハァ…いや、ごめん…フフ

実はさ~写メ送ったんだよね、俺の義理の姉の。」

義理の姉?

「俺の兄嫁。

高野がこの間電車で偶然会ったってさっき言ってたからさ。

多分、あいつ勘違いしてんのかな?と思ってさ。
念のため送ってみたんだよね。

そしたらすぐ電話かけてきて、
『あの女、あんたの知り合い??』って聞くからさ。『兄嫁。高野とも知り合いだけど。』って説明したんだよ。

『兄嫁?なんであんたの兄嫁が高野とデートしてんの!』

だって。

どこからそんな噂になるんだろうなぁ。
顔見知りがおんなじ方向に帰ってただけなのに。
ま、高野があいつ以外の女連れてるってだけでも相当インパクトあるから、そういう噂になったのかね?」

そうなんだ。

「景子先輩の勘違いだったんだ。よかったぁ~」

「だよな。やっぱり二人は上手くいってほしいし。しかし、ほんと世話かかるよなぁ。」

ほんとですね

って二人で笑った。

景子先輩は私みたいに消極的じゃないけど、
なんだかあの二人って私と遼みたい。

好きあってるのに素直じゃなくて
少しの誤解でこんなに距離開けちゃうんだ。
そして高野先輩は黙って身を引いちゃうんだ。

それが命取りなのに。

他人のことならこんなによくわかるのにね。

恋をするとみんなこんな感じなのかな?

まるで不毛だった私と遼の関係が成就したみたいで嬉しかった。







< 61 / 136 >

この作品をシェア

pagetop