遠すぎる君
「行こ行こ~!」
奈々先輩は俺の腕を引っ張って歩く。
普通に歩けないのか?
マネージャーとこういう風に腕を組んで歩いてると、やっかみがくるんだけど……
キョロキョロと視線をさ迷わせた。
すると、3年の先輩軍団がちょうど前に歩いていて、奈々先輩の声で何人か振り返った。嫌な予感しかしない。
「あ、みんな、お疲れ様!」
元気な奈々先輩に「おー」「お疲れ~」なんて返事がある。
腕を取られたまま3年の一団に交わってしまった。
「なに?レギュラーになったら女できた?」
俺と同じ準レギュラー扱いの先輩が絡んでくる。
「え?」
「おい……山下」
「お前、いいのか?恋愛にうつつ抜かしてて。」
「やめとけって……」
「中坊の時も女で部活に身が入らなかったって言われてたんだろ?」
背中がざわつくのがわかった。
「県大会、逃したんだろ?女のせいで」
奈々先輩に引っ張られてない方の右手が自然と握りこぶしになる。
「山下!」
部長が声を上げ、瞬間理性が戻ってきた。
「謂れの無い中傷は止めろ。チームメイトだろう。」
途端に分が悪くなった先輩は
「なんだよ……」と不平を小さく漏らした。
「部長!サッカー部の為の買い出しに行ってくるね!
行くよ、荷物係!」
必要以上に明るい声で奈々先輩は宣言し、俺の腕を控えめに引っ張った。
「頼んだよ。」
穏やかな笑顔で手を降った部長とあと何人かに、俺はペコリと頭を下げた。
その横で山下先輩は俺を睨んでいた。