遠すぎる君
愛したかった人
誕生日間近の日曜日、未だに先輩からの連絡はない。
意を決した私は、小さなバッグに財布と携帯と先輩の部屋の鍵を入れて家を飛び出した。
先輩の予定は聞いてない。
バイトかもしれないし、遊びに行ってるかもしれない。
それでもよかった。
どんなに部屋の前で待つことになっても、それは私への罰。私が辛く感じれば感じるほど、先輩に謝る資格が持てる気がした。
本当に身勝手な考えではあるけれど。
電車に乗っている二時間、私はどう言えば自分の気持ちが伝わるのか、そればかり考えていた。
先輩は私の気持ちを汲んでくれるだろう。
気の回る優しい人だ。私の言いたい事なんて、私よりわかってるのかもしれない。
それでも自分の気持ちを自分の言葉で告げたかった。
先輩がくれた言葉で自分に自信が持てた。
先輩と付き合って、とても優しい気持ちになれた。
先輩は大事な人。
なのに、先輩がくれる愛情が大きすぎて心苦しくて、それがどんどん大きくなって、立ち行かなくなった。
私は未熟すぎた。
気がつくと最寄り駅の1つ前になっていた。
少し感傷的になって、一人なのに泣きそうになっていた。
目にぎゅっと力を入れ、なんとか滲んだ涙を引っ込めた。
そして、先輩が住む町に降り立つ。
匂ったことの無い、しっとりした香りが私の鼻を掠めた。