遠すぎる君
以前教えてもらった先輩の住所。
現代ではスマホに入力すると案内してくれるというのに
私は経済的な理由でガラケー。
バスに乗り、降りた停留所からは、家のパソコンから調べてプリントアウトしておいた紙を広げる。
ようやく学生用のワンルームマンションにたどり着いた。
ドキドキと胸を打つ鼓動。
階段を上る足も少し震えてるみたい。
先輩の部屋がある2階に着く頃には軽く息切れしていた。
「えっと……203……」
ドアの前の表示を確認しつつ足を踏み出した。
時刻は朝の10時。大学生でも寝ているということは考えにくい時間だ。
「あ、あった……」
203号室。ここが先輩の部屋らしい。
失礼ながらドアに耳を寄せてみると物音がしてホッとした。
ベルを鳴らそうと右手を動かした時、
「コーイチ!私帰るけど遅れないでよ~」という声と共にドアが開いた。
近くにいたのでドアがガツンと私の肩と足に当たったけれど、そんな衝撃に痛みはなかった。
衝撃を感じたとしたら、心。
とっさの判断が出来ず、私はただ突っ立ってるだけ。
動くことも声を発することも出来なかった。
目の前の綺麗に化粧した女の人が狼狽えている。
何か、何か喋らないと……
言葉を探すけれども、頭の中の引き出しは閉じたまま。
「ちょ、コーイチ……」
「どした?」
上半身裸、下半身スウェットの先輩が出てきた。
その先輩の顔は何が起こっているか瞬時に判断された模様で、目を剥いた。
「し……おり……」
私の名を呼んだ男の人は、間違いなく岸田先輩だった。