遠すぎる君
温もりが離れていく。先輩は静かに私の体を離した。
抱き合って泣いたのは時間にしてみたら10分位だったのかもしれない。
だけど私には何時間にも感じた。
先輩と初めて心の距離が無くなったように感じたのは初めてだった、のに……。
先輩は腕で涙を拭った。そして私とは反対の窓の向こうに体を向けた。
「ごめん……しおりを責めるのは筋違いだよな……」
「そんな……そんなこと無いんです。私が……」
どう言えばいいのか、考えていた事がさっきの涙と一緒に流れてしまったように頭が空っぽだ。
「……俺、待ってたんだ……ずっと、ここで」
「え」
「ここに越して来てから、いつしおりが来てくれるのかって。」
ずっと待っていた
そう聞かされてドキッとした。
「電話も待ってた。……俺が連絡すれば良かったんだけど……出来なかった。」
「先輩……、私……」
「いいんだよ。俺、しおりを試してたのかもしれない……
きっと寂しくなって電話してきてくれる、会いに来てくれるって思ってたんだ。でも時間が過ぎるに連れて、苦しくなってきて……辛かった。
さっきのアイツ、俺と同じ学部のヤツなんだけど、入学してから俺に付きまとうようになって最初は鬱陶しいと思ってたんだけど……
その内、アイツで気を紛らわせてたんだ。
『彼女がいるのは知ってるけど一緒に頑張るのはいいでしょう?』って言ってきて……
俺を過剰評価してるのはわかってたけど、それが嬉しかった……
でも、浮気なんてするつもりはなかった。
ただ……俺は……しおりに会いたかった……。会いに来てほしかった。」
背中を向けて、私に泣き顔を見られないようにして座ってる先輩の背中が小さく見えた。
「先輩……ごめんなさい……」
「だから、なんで謝るの?どうしたって浮気なのに……」
「だって……私が連絡もしなかったから……それなのに急に来てしまって……」
先輩がそんな気持ちで私を待ってたなんて、思いもしなかった。
いや、きっと心のどこかでわかってたはず。
大学の忙しさに紛れて私を蔑ろにしない。
それを望んでいたのは私……
「……しおり……しおりにとって俺はそれぐらいの存在なんだな……」
核心めいた言葉に物凄い罪悪感が襲ってくる。
「…………せん、ぱ」
「いいんだ。わかってる。しおりはいつも違うところを見てるんだ。……俺じゃない。
今だって俺を責めもしない。仕方がないことだと割り切ってる。」
「先輩……違う……」
私は先輩の背中にそっと触れた。
「!触るなっっ!……」
瞬時に腕を引っ込めた。
「触らないでくれ……。俺は…………しおりが触れていい男じゃないんだ……。
俺にはそんな資格は……もう無いんだ……。
ごめん……ごめん、しおり……。」
『ごめん』『ごめん』と小さく呟いて懺悔する様を見て、
私のせいで先輩がどんなに苦しんでいたか、
そして彼女とのことを後悔しているかわかった。
先輩の想いは私の胸をキューッと締め付けて息が苦しくなる。