遠すぎる君
「帰ってくれないか……?」
そして先輩との時間が終わる。
私は静かに立ち上がった。
そして先輩の背中に向かって深々と頭を下げる。
「もう、謝らないでくれよ……情けなくなるから……」
涙がまた溢れてくる。
「あ、ありがとうございました……。本当にっっ、た、楽しかったんです、私……。」
鼻水を啜りながら、精一杯感謝の言葉を伝えた。
「最後まで敬語で、名前も呼んでくれなかったな……。」
フッと鼻で笑った後、
「俺はしおりが……大好きだったよ。
しおりは俺が幸せにしたかった。ごめんな……」
先輩の言葉と心を受け止めて、私は合鍵を置いてその部屋を出た。
しばらくドアの前で動けなかった。
先輩の小さな泣き声が聞こえてきている間は。
短かったけれど、とても幸せな時間を過ごせた。
先輩が優しくて、楽しくて、私を愛してくれていたから。
そんな先輩とはもうこの先交わることはないんだと思うと、苦しくて悲しくて申し訳なくて、しばらく駅のトイレの中で泣いた。