遠すぎる君
あなたを求めて
「コラッ高坂!廊下を走るな!あ、お前、昨日の課題……オイッ」
化学教師の怒声が廊下に響く。
「すいませんっ!必ず明日やって来ますんで!」
「高坂!とりあえず止まらんかっ!」
俺は一目散に部室へ向かうべく足を速める。
毎日の事だ。
教師は諦めたらしく、追ってこない。
昇降口に着いてホッとした俺は横に立っていた永沢にビクッとした。
「な、永沢……帰るの早いな……」
「……あぁ。早くホームルームが終わったんでね。」
永沢は二年になって特進クラスに在籍となった。
入学当初から彼女が居てもちっとも成績が落ちない、それどころか上がっていって今や国立進学コース。俺とは真逆の人間だ。
「あ、松井待ってんのか……?」
「そうだけど」
「相変わらず仲良いんだな。」
「お前は相変わらずサッカーバカなんだな。」
グッと詰まった。
何も言い返せねぇ……
「巷では彼女が出来たとか……?」
鼻で笑うように言う。
「え?」
「年上のマネージャーと仲良いんだろ?」
「…………え?」
「違うのか?」
サッカー部のイザコザが帰宅部の永沢の耳にまで入ってる?
「ち、ちがっ!」
「ま、俺にはどうでもいい事だけど……美幸が嫌な顔してた。」
「違うっての!……ま、まさかしおりの耳にも……」
「それは知らないけど。あ、終わった?」
そこには松井が立っていた。
「なんの話?」
「サッカーバカとマネージャーの……」
「違うからな!松井!お前、有ること無いこと言いふらすなよ……」
松井相手だとつい最後は語尾が小さくなってしまう。
「何よ?有ること無いことって。誰に言うって言うのよ?」
「え?……あ、いや……」
松井は早々と靴に履き替えて永沢と並ぶ。
「……今度はもっと頑張りなさいよ。」
そして俺に背を向けた。
松井の言葉は俺へのエール……だと思ったのは俺の思い過ごしだろうか。