遠すぎる君
店内を見渡すと、いい歳の大人ばかり。
スーツ姿の人もいれば、作務衣のお爺さんもいる。
皆コーヒーを飲んでいて、高校生のガキなんて居ない。
そこにガキにぴったりのコーラが置かれた。
「お待たせしました。」
顔をあげると満面の笑みでしおりが立っていた。
いや、余りにも場違いな俺を笑ったのかもしれない。
「……ごゆっくり……」
テーブルから離れていくしおりに「あ、」と声をかけた。
振り向いたしおりはニコッと笑って「それ、サービスだから」とコーラを指差した。
俺の前のコーラには小さな丸いアイスがちょこんと乗っていた。
それを見て、俺は余計に場違いを痛感した。
俺って……俺って……
やっぱりがっくり肩を落としてそのコーラに手を伸ばす。
でもしおりがサービスしてくれたんだと思うと、ちょっとほっこりした。
やっぱガキだ、俺は。
そのコーラの上のアイスを食べると幾分頭が冷えてきた。
「早いけどもういいよ。」マスターの声が聞こえてくる。
「はい、ありがとうございます。」
しおりはエプロンを外し、カウンターの奥へと消えた。
え?まさか……もう、帰るのか?
急いでアイス入りのコーラを流し込み、「ご馳走さまでした!」と席を立つ。
ガタンという椅子の音に客の大半の視線を感じるが、そんなことはどうでもいい。
「え?あ、ありがとうございます。……でも、今……」
と、マスターが何か言うけれど
俺には悠長に話している時間はない。
「これ!お釣りは要りません。」とテーブルに千円札を置いて慌てて店を出た。「ちょっと……!」と背中から声が聞こえる。
自転車に乗り通りに出て俺は、左右をキョロキョロと見回す。
しおり……しおり、しおりは……
しおりの姿が既に見えない事に焦って泣きそうになっていた。
そうすると、後ろからポンポンと背中を叩かれた。