遠すぎる君
遼がいる。
汗だくでしかも慌てて入ってきた姿を見て、驚いた。
この店で遼に会えるなんて、幻かしら……
そんなことを思いながらそのテーブルへ注文を取りに行く。それはもう慣れきった仕事だから、混乱することなく出来た。心臓はまだうるさかったけれど。
遼がコーヒーを注文したとき、「そんなに汗だくで、そんなの飲みたいの?」と思ったが、遼も同じことを思ったらしい。
『コーラ』を注文した遼は変わってなくて嬉しかった。
その焦り方も。
笑いながら注文を伝えたマスターに「知り合いかい?」と訪ねられ、「中学の時の……」と答えた私はきっととても嬉しそうだったのだろう。
「コーラに何かおまけしてあげていいよ。」とのお言葉に私は迷いなくアイスを選んだ。
きっと今日も部活だったんだろう、と思ったから。
それに汗かいてたし。
マスターはとても気のいい人で、知り合いが来た私を早目にあげてくれた。
まだコーラを出したばかり。少し後で遼のテーブルに座ってみようかな。
そう思ってカウンターの裏の小部屋に荷物を取りに行ってその場で携帯をチェックしていたら、マスターが慌てて入ってきた。
「ちょっ、しおりちゃん!彼、帰っちゃったよ!」
えぇっっ?!
驚いて私は携帯を鞄に仕舞って「すいません!失礼します!」とドアを出る。
「まだそこらにいると思うけど。あ、これ返しといて。お釣りね……サービスした意味無いねぇ」
私の手に小銭を乗せて苦笑いしていた。
できるだけ急いで店を出る。
狭い幅の道の向こう、大通りの角に遼を見つけることができてホッとする。
私に会いに来てくれたんじゃないの?
それとも偶然……?
萎みそうな心を叱咤する。
違う。コーヒー専門店のあの店でコーラを頼んだ遼。
間違いなく私に会いに来てくれたんだ。
どんな用なのかはわからない。
だけど、今日会った遼は……私に「好きなんだけど」と告白してくれた時の遼と似ていた。
だから私は自転車の横で佇んでいる遼の背中を叩いたんだ。