きみはアイドル
しばらくぼーっとしながら麻結を見つめていると、
「あっ、そういえば…これからどこかに行くんだったの?」
…あっ!
黙ってしまった僕を見かねたのだろうか。
麻結がニコリと笑ってそう尋ねたとき、僕は帰りの電車が分からなくて途方に暮れていたことを思い出した。
「いや…それが…今から帰るところだったんだけど、帰りの電車が分からなくて…」
…情けないよね…呆れるかも…
「駅って…何駅?」
「え、ええと…奏駅っていうところ。隣の県なんだけど…」
僕がそう答えると、麻結は少し考えた後
「隣…あ、もしかしたら分かったかも!良かったら途中まで一緒に行こうか?」
えぇ⁉︎
「そ、それはすごく嬉しいけど…!麻結の迷惑にならない…かなぁ…」
「大丈夫!そっちからでも帰れるから。私も丁度帰るところだったし、ね!」
そう言って満面の笑みで僕を見る麻結。
…まるで天使みたい…
気がつくとそんな事を思っていた。
「じゃあ…お願いしてもいい?」
「もちろん!…えーっと…名前は何て言うの?」
「あ、神山一輝…って言います。」
まさか僕の名前を聞いてくれるなんて思わなかったから
少し驚きつつも、おずおずと答えた。
「一輝くんね!じゃあ…行こ!一輝くん。」
名前を呼ばれるだけでドキっとしたのに
麻結が差し出してくれた手をつないで歩き出したとき
僕の心臓はもうバクバクだった。