幾年時紀
『名前がないってなんだよ?』
『………………』
それっきり、彼女は黙ってしまった。
『……お前……なんなの?』
『わからない……』
『は?』
『わからないの……!でも、一つだけ分かることがあるの……それはね……私は何も覚えていないってこと……』
いきなり意味のわからないことを話だす目の前の少女は、今にも泣きそうな顔をしていた。
そんな彼女を見ると、なんだか《泣かせてはいけない》そんな気がしてしょうがなかった。
だから僕は、彼女に。
『名前が無いなら……僕がつけてあげるよ』
そう言って、僕はできる限りの笑顔で笑った。
『名前……を?』
『あぁ。心とか。どうかな?』
突拍子もなく、突然出てきたのが《心》と言う名前。
僕に何故その言葉が出てきたのかは分からないけど、なんとなく、この少女は《心》なのだという気がしていた。
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