あなたが私にキスをした。
「そんなことより、家出ってなんだよ」
「だってさ、オヤジが俺に、後継げ、後継げってうるせぇんだもん」
「継ぐ気じゃないのか」
「継ぐよ。でも、もう少しのんびりしたっていいだろ」
「そんな悠長な」
思わず会話の内容が気になって、ドアに耳を近づけてしまう。
「・・・悠長?元はと言えば兄貴が『彫刻家になる』とか言って家出るから、俺がオヤジの店を継ぐことになってんだろ?」
「それは、そうだけど」
兄貴、ということは、この人はどうやらトキワの弟らしい。
「――いいよな、兄貴ばっか欲しいもん手に入れて」
「・・・・・・」
「あ。そうでもないか。結局レイカさんには逃げられちゃってるしな」
「お前なぁ・・・」
トキワはふう、と深いため息をついた。
「とにかくここには泊められない。帰って父さんと話し合え」
「どうして?あの子がいるから?」
そう言ってユヅキくんが指さしたのは、私のいる場所だった。