あなたが私にキスをした。
日が落ちてきて、人がまばらになった会場のすみで、私たちは雪でできたベンチに腰をおろして話し始めた。
「はじめて兄貴がレイカさんを連れてきたとき、一目惚れしたんだ。そのときはまだ、兄貴とレイカさんは付き合う前で、同じ大学のサークル仲間数人と一緒だった。でもさ、何度かうちに遊びにくるレイカさんを見ていると、わかっちゃうんだよ、好きだから。レイカさんがどんどん兄貴に惚れていくのがさ」
西の空が赤く染まって、急に風が冷たくなってきた。
「悔しかったよ、またかって思って。頭の良さも、運動神経も、両親の期待も、才能も、いつも兄貴ばっかり手に入れていた。一度も敵わなかった」
私はただ、黙ってユヅキくんの言葉に耳をかたむけた。
「だからさ、レイカさんが出て行ったって聞いたとき、正直、ざまあみろって思ったんだよ。…最低だよな」
「……」
「トーコちゃんを口説いたのも、兄貴を見返したかったから」
「うん、そうかなって思ってた」
「でも」
「?」
ユヅキくんが、私の方に身体を向けたかと思うと、温かいむくもりに包まれた。
「ユヅキくん、痛いよ…」
私が言うと、ユヅキくんはいっそう強く私を抱きしめる。
でも不思議と、さっきより痛くなかった。