あなたが私にキスをした。
「いいえ、彼は彫刻家です」
僕は驚いて、トーコを見た。
彼女はどちらかというと控えめで、こんなふうに、まして初対面の男にはっきりと物言うタイプじゃないはずだ。
その彼女が、真っ直ぐにイオリに向かってそう言ったのだ。
「ほう、それはどうして?」
「彼の作品には、想いがあるからです」
「ふうん」
イオリは納得いかない様子で、黙り込んだ。
そして、少し考えたあと、こう言った。
「それじゃあ、来月の世界大会で判定してもらおうか」
「世界大会?」
――氷彫刻の世界大会。
世界中の彫刻家たちが一同に会する、氷彫刻の世界でもっとも権威ある大会だ。
今年は日本が会場となっており、イオリも僕も参加することになっている。
ちなみに、去年の大会ではイオリは入賞を果たしており、一方の僕は予選落ちして大会に出ることも叶わなかったのだが。
「世界の目で、ボクとトキワくんの作品を評価してもらおうじゃないか」
そう言ってイオリは意味深な笑顔を僕に向けると、背を向けて去っていってしまった。