あなたが私にキスをした。

「いいえ、彼は彫刻家です」




僕は驚いて、トーコを見た。

彼女はどちらかというと控えめで、こんなふうに、まして初対面の男にはっきりと物言うタイプじゃないはずだ。

その彼女が、真っ直ぐにイオリに向かってそう言ったのだ。



「ほう、それはどうして?」

「彼の作品には、想いがあるからです」

「ふうん」



イオリは納得いかない様子で、黙り込んだ。

そして、少し考えたあと、こう言った。



「それじゃあ、来月の世界大会で判定してもらおうか」

「世界大会?」





――氷彫刻の世界大会。

世界中の彫刻家たちが一同に会する、氷彫刻の世界でもっとも権威ある大会だ。
今年は日本が会場となっており、イオリも僕も参加することになっている。


ちなみに、去年の大会ではイオリは入賞を果たしており、一方の僕は予選落ちして大会に出ることも叶わなかったのだが。




「世界の目で、ボクとトキワくんの作品を評価してもらおうじゃないか」




そう言ってイオリは意味深な笑顔を僕に向けると、背を向けて去っていってしまった。

< 48 / 109 >

この作品をシェア

pagetop