あなたが私にキスをした。
――Side　トキワ

こんなことが、あるのだろうか。




アトリエで彼女が目を開けたとき、僕はあまりの驚きに言葉を失った。

ほんの数秒前までは、他の作品と変わらぬ透明な姿だったはずの彼女は人間と変わらぬ姿でぴょんと台座を飛び降りた。

いったい、何が起こっているのだろう。

混乱で真っ白になる頭の片隅で、僕の作品たちを興味深そうに眺める彼女の後ろ姿をレイカのそれと重ねている自分がいた。



「さ、・・・寒くないか？」



恐る恐る聞いてみると、彼女は少し考えるようにじっとしたあと、


くしゅん、


と可愛らしいくしゃみをひとつした。


その姿がどうしようもなく愛おしく思えて、抱きしめたくなる気持ちをぐっとこらえて僕は自分のマフラーを彼女の首に優しく巻いた。



なぜ僕の作品であったはずの彼女に、突然命が宿ったのかはわからない。

だけど彼女という存在が、孤独に震え、凍えていた僕の心を一瞬にして溶かしてしまったことだけは真実だ。



僕は彼女を部屋に招くと、台所で二人分のコーヒーを入れた。

彼女のカップにミルクと砂糖を多めに入れてしまったのは、きっと頭のどこかで彼女とレイカを重ねていたからに違いない。

いれたてのコーヒーを持って彼女のもとに行くと、彼女はソファーに体を預けてすやすやと眠りに落ちていた。

その寝顔があまりにも、出会った頃にレイカにそっくりで思わず心臓がどきんと跳ねた。

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