あなたが私にキスをした。
「兄貴らしくないよな、こんな考えなしなことするなんてさ」
「…そうだな、ユヅキのまえではいつも『いいお兄ちゃん』でいようって必死だったからな」
なんだよ、それ。初耳なんだけど。
「ユヅキはさ、僕のことを完璧で、欲しいものはなんでも持ってるみたいに思ってるんだろ」
「そう見えるけど」
「そう『見せてた』んだよ。かわいい弟に『お兄ちゃんカッコイイ』って言って欲しくてさ」
まさか、兄貴がそんなことを?
いや、うそだ。
きっと大げさに言っているんだろう。
「大変だったんだ、必死で努力してる姿見せたくなかったから、遅くまで学校の図書室で勉強したり、運動会の三ヶ月前になると朝早起きしてランニングしたりとかして」
「知らねえよ、そんなの」
「知られないようにしてたんだよ」
そう言って、兄貴が懐かしそうに笑った。