あなたが私にキスをした。
「ユヅキが生まれる前まで、僕は気弱で内気で、幼稚園ではいじめられっ子だった。だけどさ、ユヅキが生まれていつも僕の後ろをチマチマついて来てさ、なにか怖いものがあると『おにいちゃーん』って僕の後ろに隠れるんだ。それを見て、なんだか正義のヒーローにでもなったような気がしたんだ。だから、強くなろうって思った」
「・・・・・・」
「強くて、カッコイイお兄ちゃんになろうって」
知らなかった。
考えたこともなかった。
強くなるため、なにかを得るため、兄貴が人知れず努力をしていたなんて。
いや――、
きっと親父はそれを知っていたんだろう。
だからこそ、兄貴の「才能」ではなく、「努力」をかっていたのかもしれない。
それなのに俺は、たいした努力もせず勝手に兄貴に嫉妬して…最低だ。
「それから、この際だから言っておくけど、僕が父さんの跡を継がなかったのは、ユヅキに遠慮したからじゃない。僕に経営は向いてないと思ったからだ。僕はあまりにも芸術を愛しすぎている」
「…ぷ、なんだよそれ」
「それが事実だ」