あなたが私にキスをした。
「じゃ、俺行くわ」
「行くって、どこに?」
「家に決まってるだろ、帰るんだよ」
家出なんて、ばかばかしいのはもうオシマイだ。
はやく、俺も『かっこよく』ならなくっちゃな、…兄貴みたいに。
「さみしくなるなあ」
「なんだよ、最初は俺を泊めるの嫌がってたくせに」
ははっと笑って、荷物を持つと、俺はゆっくりと立ち上がった。
「俺、ずっと勘違いしてたみたい」
俺はいつだって、なにかを『欲しがって』生きてきた。
能力だとか、才能だとか、愛情だとか、そういったものを。
だけど、それは間違いだった。
「兄貴は、ずっと自分で創ってきたんだな。そして、与えてくれてたんだな」
だから、兄貴。
いつか兄貴が『どちらか』を選ぶ時がきたとしても、決して自分を責めたりするなよ。
兄貴はちゃんと『与えて』きたのだから。
そこにはたしかに、『愛』があったのだから――…。