あなたが私にキスをした。
――side トーコ



冷たくて、薄暗い部屋。

音のない世界で、あなただけが見える。

ねえ、どうして泣いているの。

なにが、そんなに悲しいの。

あなたの唇がゆっくりと、うごく。




あ、い、し、て、る。




私はあなたの頬をつたう涙をぬぐってあげたいのに、どうしてだろう、手が届かないの。

私はここにいるよ、大丈夫だよって伝えたいのに声すらも届かくて。

もどかしくて、もどかしくて。

そしてふと、私は気づく。

あなたの瞳に映る私が、色のない冷たい人形に変わっていることに。




あぁ、ついに

――この時が来てしまったのね。




あなたを泣かせているのは、他でもない私だったのね。

ごめんね、…ごめんね、トキワ。




あいしてるよ……。

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