あなたが私にキスをした。





はぁはぁ、と荒い呼吸で目が覚めた。

両手を動かしてみる、大丈夫、ちゃんと動くし透けてもない。



「おはようトーコ、目が覚めたんだね」



いつもの通り、やさしくってあったかいトキワの笑顔。

トキワはかたく絞ったタオルで私の額をぬぐってくれた。

全身が汗でびっしょりと濡れていた。



「顔色わるいね、いやな夢でも見てたの?」



心配そうにたずねる、トキワ。

私は曖昧にうなずいた。



「ちょっと、シャワー浴びてくるね」



そう言って浴室へと向かおうとすると、後ろからふいに抱きしめられた。



「いま、汗だくだよぉ」



笑って言うけど、トキワは笑っていない。



「一人で、抱え込まないで」

「…うん」

「いなく、ならないで」

「……」




それは、約束できないよ。

だって、その運命を握っているのは、きっと私じゃない。

私の意志とは無関係に、もし、「その日」が訪れるのだとしたら――…。

私はトキワのほうに振り返って、そっとキスをした。



「シャワー、あびてくるね」



そして逃げるように、その場を離れた。
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