あなたが私にキスをした。
*
はぁはぁ、と荒い呼吸で目が覚めた。
両手を動かしてみる、大丈夫、ちゃんと動くし透けてもない。
「おはようトーコ、目が覚めたんだね」
いつもの通り、やさしくってあったかいトキワの笑顔。
トキワはかたく絞ったタオルで私の額をぬぐってくれた。
全身が汗でびっしょりと濡れていた。
「顔色わるいね、いやな夢でも見てたの?」
心配そうにたずねる、トキワ。
私は曖昧にうなずいた。
「ちょっと、シャワー浴びてくるね」
そう言って浴室へと向かおうとすると、後ろからふいに抱きしめられた。
「いま、汗だくだよぉ」
笑って言うけど、トキワは笑っていない。
「一人で、抱え込まないで」
「…うん」
「いなく、ならないで」
「……」
それは、約束できないよ。
だって、その運命を握っているのは、きっと私じゃない。
私の意志とは無関係に、もし、「その日」が訪れるのだとしたら――…。
私はトキワのほうに振り返って、そっとキスをした。
「シャワー、あびてくるね」
そして逃げるように、その場を離れた。