あなたが私にキスをした。

「だまって出て行ってごめんね」



レイカさんが言った。



「いいよ、何かそうしなくちゃいけない事情があったんだろ」



コーヒーをレイカさんに差し出しながら、トキワが答えた。

ダイニングテーブルに向かい合うように座る二人。だけど、どちらも視線を合わせようとはせず、なんだかぎこちない感じだ。



「トキワは、いつもそうだよね」

「どういうこと?」

「優しすぎるんだよ」



ぴり、と空気が凍てつくのを感じる。嫌な空気がただよっていた。



「決断が遅くなってごめんね。私達、別れよう」



レイカさんが、そう言った。



「別れる…?どうして?」

「私達、合わなかったんだよ」

「合わなかった?僕はそんなこと、一度も思ったことなかった」

「私は、あった。何度も、何度も。不安でこわくて、ずっとずっと考えていたの。あなたのもとを去るべきなんじゃないかって」

「そんな…」

< 66 / 109 >

この作品をシェア

pagetop