あなたが私にキスをした。
トキワは絶句していた。
ずっと幸せだと思っていたのに、それが独りよがりな思いだったというのか。そんな唖然とした表情を浮かべていた。
「それにね、」
と、言いづらそうにレイカさんが続けた。
「私、イオリさんと、付き合ってるの」
「…え」
イオリさん。
トキワに挑発してきた、あの人だ。
でもなんで、よりにもよって、イオリさんと…?
「うそ、ですよね?」
考えるよりも先に、勝手に体が動いていた。
わたしは二人の前に飛び出して、レイカさんにそうたずねていた。
「本当よ」
「そんなの、ひどすぎる」
「そうね、私もそう思うわ」
あっさりとレイカさんはそう言った。
そのあと、レイカさんは荷物を整理したいから、と言って家の片付けを始めた。
トキワは暖炉の前のソファでうなだれたまま、動こうとはしなかった。