あなたが私にキスをした。
「あの、レイカさん」
寝室で荷物をまとめているレイカさんに、恐る恐る声をかけてみる。振り返った顔を見て、少し驚いた。目が、赤かったから。
ほかの人を好きになって別れても、やっぱり別れは悲しいものなのだろうか。
「あ、あなたトーコさんよね」
「はい」
「イオリさんから、話は聞いているわ」
レイカさんはそう言って笑った。優しい笑顔だった。
「まさか、私がいるからトキワと別れようと思ったんじゃ」
「ちがう。むしろ、あなたがいてくれてよかったと思っているのよ」
服をひとつひとつ、たたみながらバッグにしまいこんでいく。
まるで思い出も一緒に封印しようとしているかのようだった。
「彼のことをよろしくね」
「でも、私は…」
私は、普通の人間じゃない。
トキワのそばに、いつまでいられるかもわからないのに。
「あなたなら大丈夫、あなたはまっすぐな愛をもっているもの」
穏やかに言うレイカさんの口調には、なにか決心のようなものが感じられた。