あなたが私にキスをした。
――side トキワ
誕生日だとか、クリスマスだとか、記念日だとか、思い出ってそうやって作るものだと思っていた。
だけど、君が僕のもとからいなくなってわかったんだ。
思い出っていうのは、もっと身近なところに染み付いているんだってことに。
君が好きだったお菓子の名前、君と作ったあの料理、君がよく聞いていた音楽、君が教えてくれたたわいない雑学。
そんな小さな記憶の欠片が、日常のふとした瞬間に顔をのぞかせるんだ。
そして、僕の心をしめつける。
「さよなら、トキワ」
大きな荷物を抱えて、レイカはあっさりとそう言った。
「うん」
僕はそれだけ言った。
さよなら、という言葉を口にしたくなかった。
だって、それを口にしてしまったら、本当に、もう二度と会えないような気がする。
どうしてこんなことになってしまったんだろう。
彼女は結局別れの理由を「合わなかった」としか言わなかった。そんなものなのかもしれない。
久しぶりに会った彼女は、髪をばっさりとショートカットにしていた。
そのせいか、顔が少し丸くなったようにも見えた。