あなたが私にキスをした。
――そして、いよいよ運命の大会の日がやってきた。
氷彫刻の祭典、年に一度の世界大会。
アトリエで、道具をひとつひとつ点検し、荷物につめる。
「よし、これで大丈夫」
あとは、部屋にある図面さえ持っていけば、それで準備は整う。
「おはよう、トキワ。いよいよだねっ」
そう言って笑顔でアトリエに入ってくるトーコ。
朝早いから、わざとまだ起こさないでいたのに。
「…だいじょうぶ?」
と、心配そうにトーコが言った。大会前日にあんなことがあったから、心配してくれているんだろう。
だけど、不思議と動揺はなかった。
むしろ、それまでのどっちつかずのモヤモヤとした気分に比べれば、すっきりとして次へ進む踏ん切りがついたような気がする。
「大丈夫だよ。あとは、部屋にある図面を持っていくだけだ」
「あれ。図面、まだ持ってないの?」
「えっ?」
「あ、いや…忘れないように、図面を持って行ってあげようかなーと思って、さっき机のまわり探したんだけど見当たらなかったから。やだなあ、私探すの下手だからさぁ」
トーコの言葉を聞いて、嫌な予感が頭をよぎる。