あなたが私にキスをした。
――『お待たせいたしました。只今より、第136回氷彫刻世界大会をとりおこないます』
広い会場に響き渡るアナウンス。
拍手と歓声に会場がつつまれる。
大会は2日かけて行われる。
40時間という制限時間内に作品を完成させるのだ。
次々と運び込まれる、四角い氷のかたまりを、まずは丹念にみがきあげる。
そして、貼り合わせながら少しずつ、ひとつの大きなかたまりに積み上げていく。
ジャッ、ジャッという氷をけずる心地よい音があちこちから聴こえてくる。
白い氷の飛沫が光を浴びてキラキラと散る。
作業開始から数時間。
接着作業を終え、氷にデッサンを書き写し始めたときのことだった。
「兄貴!」
トーコとともに駆け寄ってきたのは、ユヅキだった。
「めずらしいな。応援に来てくれたのか」
「まあな。そんなことより…」
ユヅキの表情がくもる。
「トキワ、ちょっと、こっち!!」
トーコは血相を変えて、息を切らしている。
そして僕のそでをつかむなり、ぐいぐいと引っ張った。
「おいおい、今は大事な大会の最中で…」
「それはそうだろうけど、トーコちゃんの言ってることが本当だったら、これはかなりまずいよ兄貴」
ユヅキが真剣な表情で、そう言った。