あなたが私にキスをした。

だから1年前、トキワは氷彫刻世界大会に出場すると聞いたときは、とても複雑な思いがしたの。




「優勝したら、ローマで大きな仕事がもらえる。これをきっかけに、世界で活躍できるようになるんだよ」




興奮気味に語る彼が、なんだか遠く感じられた。



彼には、芸術家として成功して欲しい。

だけど、その時私との未来はどうなるのだろう?

世界のあちこちで仕事をする彼に、本当に私はついていけるのだろうか。



いや、むしろ私の存在が彼の足かせになるのでは…?



期待と不安が渦巻いて、どうしていいかわからなかった。

だけど、どれをトキワに伝えることもできないまま、時は流れた。



結局昨年の大会では、予選落ち。

大会に出場することすらできなかったトキワだけど、いつかきっと彼は、世界で活躍するアーティストになるだろう。

そう、私は確信していた。






そんな、ある日。




――私の妊娠が発覚した。

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