あなたが私にキスをした。
三日前、突然私の元にあらわれたイオリは、こう言った。
「トキワの図面を盗め。それをしなければ、お前の妊娠が妊娠している事実をトキワに話す」
なぜ、イオリがそれを知っているのだろう。
おそらく、ずっとライバル視してきたトキワを負かすために、弱みを握ろうと必死で情報をかき集めたのだろう。
だけど、それだけだったら図面を盗もうなんて思わなかった。
さらに、彼はこう続けた。
「それでも盗まないというのなら、俺は優勝のために、トーコという女を傷つけてもかまわないと思っている」
――トーコ。
それは、私がいなくなってから、トキワが一緒に暮らすようになった少女だった。
どういうわけか彼女は、トキワと出会った当時の私にとてもよく似ていた。
雪祭りの日、イオリとトキワとトーコさんが何やら話している会話を偶然にも聞いた私は、彼女がトキワの心の支えであることを知った。
「彼の作品には、想いがあるからです」
トキワを「芸術家ではない」と主張するイオリに、そうきっぱりと答えるトーコさんに、私は拍手を贈りたい気持ちでいっぱいになった。
彼女になら、トキワを任せられる。彼女なら、トキワを本物の彫刻家にしてくれるだろう。
ちょっと、くやしいけど。