狐と嫁と溺愛と
気がつけばスーツ姿であたしのベッドに座っている大河さん。



帰ってきて、そのままこの部屋に来たみたい。



「久しぶりの会社はどうだった?」

「ジローがピリピリしてた」

「ふふっ、忙しいからだね」



シュルリとネクタイを首から引き抜き、シャツのボタンを数個開けて。



パタッと横になる大河さんは、やっぱりどんな仕草も様になる。



「明日、休みにしてきた」

「うん?」

「妖の世界に行かないか?」

「えっ⁉︎」

「あっちの世界はもう桜が咲いてるらしい」

「あっちの…世界って…」

「イヤならいい。俺みたいなのがうじゃうじゃいるし。無理強いはしない」



来て欲しいって…聞こえるんだけど…。



あたし、自惚れてもいいのかな?



最近ね、すごく…すご〜く、大事にされてる気がするの。



エサとか、力のためとか、そういうんじゃなくて。



ちゃんと『ナナ』という人間を見てくれてるような気になっちゃうの。



< 115 / 582 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop