狐と嫁と溺愛と
これは風邪だ。



覚醒する前とは違う倦怠感や体の不調。



「奥方様、朝でございます」



大河さんがいない今、誰にも気づかれたくなくて、平然を装ってご飯を食べる。



頭痛い…。



大河さん、早く帰ってきて?



「奥方様、こちら、月の雫です」

「へっ⁉︎」

「当主様が好きな和菓子です。こちらに来た際は、奥方様に召し上がっていただきたいと」



お昼を食べた後に出されたお菓子。



薄い膜のような皮が透き通っていて、黄色い何かが入っている。



「おいし…」

「よかったです」



初めて笑った蘭月さん。



黄色いなにかというのは、どうやら桃だった。



甘いし、おいしいし、幸せの味。



「大河さんに会いたい…」

「奥方様…?」

「なんでもないですよ。少し部屋で休みます。夕食はいらないので、寝かせてもらってもいいですか?」

「構いませんが…。お加減でも…?」

「いえ、不慣れな場所で少し疲れただけです」



早く帰って来て、大河さん…。



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