狐と嫁と溺愛と
ゆっくり脱がせた着物を床に落とした。



目を背けたくなるような傷。



脇腹を、背中まで貫通してるようで。



さすがに顔を歪める大河さんは、額に汗を浮かべていた。



「血が…止まってない…」

「みたいだな…」

「お風呂なんかダメじゃないの⁉︎」

「傷口を洗いたい。大丈夫だ、こんなの、すぐに治る…」



フラッと浴室へ歩いて行った大河さんを追いかけた。



シャワーなんてない、この世界。



湯船からすくったお湯を、自分でかけた。



「くっ…」



お湯が赤い。



大河さんから流れる赤は、排水口へと流れた。



「深い…。死んじゃうよ…」

「大丈夫だ。大丈夫、大丈夫…」

「大丈夫じゃないっ‼︎」



あたしが…あたしが治す。



「大河さん、少し我慢してね」

「何を…」



自然と体が動いた。



噛み付くのが本能と言った大河さん。



これがきっと、あたしの本能。



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