狐と嫁と溺愛と
傷口にフーッと息を吹きかける。



ビクッと大河さんの体が跳ねた。



あたしが治すんだ。



愛おしい人の、この傷を…。



「ナナ…?」

「治るよ、治るから…」



そのまましばらく、願いながら息を吹きかけた。



血が止まり、傷口が塞がっていく。



あたしにできること、あたしがやりたいこと。



「痛く…ねぇ…」



キツイね、これ。



だいぶ体力奪われるよ…。



「治った…。どうやった⁉︎」

「よかった…。大河さんが痛いの、イヤだっ…ハァハァハァ…」

「ナナ?」



呼吸が苦しい。



うまく息ができなくなって、浅い呼吸が続く。



「過呼吸っ…。ナナ、大丈夫だ、落ち着け…」



大河さんに抱きしめられ、胸に耳を当てる。



どくん、どくんっと、大河さんの心臓の音。



トントンと、背中を叩かれ、大河さんが大きく息を吸い込み、ゆっくり吐き出す。



「俺に合わせろ」



できないよっ…。



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