狐と嫁と溺愛と
それからは時間が経つのが早くて、先に届けられた婚姻届にサインだけすればいいと言われ、頭が真っ白なままサインした。



なにも考えたくない。



なにもしたくない…。



相手がどんな変態オヤジかなんて、どうだっていい。



大雪で家出もできないほど弱いあたしには、逃げる道なんてあるわけもなくて。



「お迎えにあがりました、私、村上と申します」

「どうも…」

「ナナ様、お荷物はそれだけでよろしいんですか?」

「あぁ、はい…」



高そうな車で迎えに来た人が、あたしの荷物をトランクに詰めた。



制服と、当面の私服。



それくらいしか持っていくものがない。



住み慣れた借家ともお別れか…。



「ナナ、元気でな」

「お父さんもね」

「おぅ」



血の繋がらないあたしを、今まで育ててくれてありがとう。



やっぱり、あたしにはたったひとりの身内だよ、お父さん…。



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