狐と嫁と溺愛と
泣いてしまうと思った。



だけど、父の顔があまりにも嬉しそうで、涙が引っ込んだ。



いったいいくらもらったんだ、あんた。



「では」



後部座席を開けてもらい、高級車というものに初めて乗り込んだ。



革張りのシートがスルッと滑る。



外で手を振る父に苦笑いで手を振り返したら、車が発進した。



滑らかな走り出しの高級車は、車独特の匂いがする。



「あのっ、酔いそうなので少し窓を開けてもいいですか?」

「これは失礼をいたしました。もしかして、ナナ様は乗り物に弱いのですか?」

「そうかもしれません…」



そんな会話の間に、少しだけ窓を開けてくれた。



冬なのに、ごめんなさい。



運転手さんなのかな?



ピシッとスーツを着こなし、姿勢が凄くいい。



40代半ばくらいかな?



落ち着く喋り方をしてくれる。



「村上さん…でしたっけ…」

「はい、なにか?」

「どれくらいで着くんですか?」



地獄の入口に。



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