ミルト




彼女は
俺の腕を振り払って家の中に消えていった。












俺は極めて緩慢に、
ゆっくりと家へ向かった。




自然とそうなった。











『聞こえない!』





そう、
彼女は叫んだのだろうか。


それとも
俺が彼女の顔を見て想像したことなのだろうか。







わからなかった。










その前に、

聞こえないって…。








俺が最後に見た彼女は
泣いていた――。











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