ミルト


今、
私が住んでいるところだ。


身内でもなく遠い親戚でもない
お母さんの知り合いの家。






多分
お母さんの手だったのだろう手が離れた。


私は背中を押されて前に出た。


若いときの母だ。






「…わかったわ」








母はそう答えると
私をギュッと抱き締めた。


幼いため全く状況を読めていない。



動かず
されるがままになっていた。









「…これからよろしくね。」





母は笑った。

実に悲しそうな顔で。









私は振り返った。

母に背を向けるようにして。










お母さんはいなかった。


走って追いかけるけど
やっぱりお母さんはいなかった。








落胆していたのか
どうしていたのかわからない。

後ろから追いついた母が
小さな手を引く。








私は道をずっと見つめながら
歩いた。



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