years
その様子は、ちょうどわたしたちは物陰になる場所にいたので、周りに見られることはなかった。
正確にいうと半分物陰で、人の通り道の方向はとっさに彼が背で遮って、私の姿は見えないようになったのだ。
彼のブレザーの内側には、目が点になった私が、男性の体温に抱き締められている状況で立ち尽くしていた。


その後、彼に聞いた話では、私をブレザーの下に入れたのは、感極まって泣きそうになった私を落ち着け!と慌てて隠す為という話。
それにしたって、ちょっと大胆すぎる行動だよね(笑)
まだ誰とも付き合ったことない人にすることじゃありません(笑)


おかげで話したこととか殆ど頭からふっとんだけど、そのとき彼が初めて、ありがとうという言葉を口にした気がする。
無口でものぐさな人だったから、そんな言葉聞くとも思わず驚いた。


わたしは帰り道も、帰ってからも、あれはなんだったんだと茫然としていた。
だけどほんの一瞬、確かに彼の心に触れた気がした。
多分、それからだ。
彼との距離が近付いたのは。


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