水平線にとどく唄
 穏やかになった海を泳ぎながら、クウは家を目指します。
 シャロンが治療してくれたので、今は足も痛くありません。
 島に近づくとお父さんの大きな体が見えました。
 お母さんも友だちも近くにいます。

「お父さん、お母さん!」
 クウは水平線のむこうまで聞こえるくらいの大きな声で叫びました。
 クウの声を聞いた、お母さんが海水を散らせながら駆け寄ってきます。
「クウ、無事だったのね」
 長い首で抱き寄せてくれた、お母さんの優しさと温かさを感じて、クウは安心しました。

「どんどん流されて……すごくこわかったよ」
 クウの話を聞きながら、お母さんは首を縦に振りながら「うんうん」と答えます。
 話の途中で、クウはお母さんにシャロンのことを話すべきかと思いましたが、やめることにしました。

『人間はこわい生き物。絶対に近づいては駄目』
 そう言っていた、お母さんに怒られてしまうと思ったのです。
 クウが無事な姿を見て、お父さんも駆け寄ってきます。友だちもです。

 たくさんの仲間たちに囲まれて、
「どうやって助かったの?」
「どこにいたの?」
 と、質問されます。

 あまりにもいろんなことを聞かれるので、クウは困ってしまうと、
「疲れているから、また今度話すよ」
 と言って、その場を離れました。

 ――人間に助けられたって言ったら、みんなどう思うんだろう。
 驚くのかな。お母さんみたいに怒るかな。
 優しかったシャロン。クウは人間は悪い生き物ではないと思いました。

 無事に帰ってきた我が家です。今日はゆっくりと休めるはず。クウは、そう思っていました。
 けれど、その日の夜、困ったことがおきてしまったのでした。
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