水平線にとどく唄
 クウがお母さんから離れて寝るのは二度目です。
 シャロンと出会う前の日の夜。そして今日です。
 昨日まで、ひとりではこわいと思っていたクウですが、お母さんが言っていた人間より、こわい生き物は島にはいないと知っていました。
 島にいる動物のなかでは優竜が一番、体が大きな生き物なのです。
 それなので、体を休めるような場所を見つけると、クウはそこに寝転がりました。

 ――お母さんなんて大嫌いだ。シャロンは僕の友だちなのに。
 首に巻かれた赤い布から花の香りがします。その香りを嗅ぐと安心できるということにクウは気づきました。
 水平線を見ると、シャロンの歌声が聞こえてくるような気がします。
 その時です。何かが近づいてくるような音が聞こえてクウは身構えました。
 誰なのかと思っていると、先程まで怒っていたお父さんが姿を見せました。

「クウ、家に帰ろう。お母さんが心配しているよ」
 お父さんの話を聞いて、クウは首を横に振ります。
「うそだ。怒っていたもん!」
 お母さんが心配しているかもしれない。クウは、それを知っています。
 けれど、シャロンのことを悪く言われて、お母さんを許せないでいました。

「クウ、お母さんの言ったことは間違いじゃないよ。そして、クウが言ったことも間違いではないのだろう。だから、どちらかが間違えているわけではないんだよ」
 お父さんの言ったことが難しくて、クウは首を傾げました。
「僕もお母さんも悪くないってこと?」
 クウが聞くとお父さんは優しい声で「そうだよ」と言います。
 そして、話をはじめました。

「シャロンという子は、あの島のお姫さまなんだよ。わたしたち優竜を助けてくれた王様の子どもなんだ」
 それを聞いたクウは嬉しくなりました。
「シャロンはいい子なの? 悪い人間とは違うの?」
 お父さんはまた優しい声で「そうだよ」と答えます。
 そして、お父さんは遠くを見つめながら更に話を続けたのです。
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