水平線にとどく唄
 友だちと家に帰ったクウは、お父さんとお母さんに海賊の話はしませんでした。
 海賊を見てきたと言ったら怒られること。
 そして、シャロンをひとりで助けると決めていたからです。

 いつものように海藻をおなかいっぱい食べた優竜たちは家に帰ります。
 クウは帰る途中で誰にも気づかれないように、そっとみんなから離れました。
 暗くなる前にシャロンと会って、安全なところに逃げるようにと教えるためです。

 東の空には一番星が輝いています。
 お昼よりすこし冷たくなった海に体を入れたクウは、水平線のむこうにある島に向かって泳ぎはじめました。
 ――絶対、シャロンを助けるんだ。
 友だちのしるしとして首にかけてもらった赤い布が、クウに勇気をくれます。
 優竜は泳ぐのが得意な恐竜です。
 そのため、クウの泳ぐ速度は、どんどんはやくなっていきます。

 がんばってクウが島に着いた時には、日が沈んで暗くなりはじめていました。
 暗いので人間に見つかる危険もすくなくなります。
 ――シャロンに、はやく教えないと。
 クウがシャロンのいた城に行こうとした時です。
 あのシャロンの歌が聞こえてきました。
 風にのって花の香りもしてきます。

 クウは歌と香りに導かれながら、大きな物音をたてないように歩きはじめました。
 そして、前と同じように窓辺にいるシャロンを見つけてクウはなきました。
 クウ、クウ、クウと。
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