水平線にとどく唄
 ポッカリと空に浮かんだ満月の夜。
 海藻を食べておなかいっぱいになった優竜たちは家に帰ります。

 クウは、ひとりでは怖くて眠れません。
 それなので、いつも、お母さんの隣で丸くなって寝ます。
 そんなクウにお母さんが話しました。

「私たちが子どもの時にはね。人間という生き物に、たくさんの仲間たちが殺されたの。だから、人間には絶対に近づいては駄目よ」

 お母さんの話を聞きながら、クウはこわくて震えます。
 人間とはどんな生き物なのでしょうか。
 一度も見たことがないクウはお母さんに聞きました。

「人間って、どんな生き物なの?」
「私たちより小さな生き物よ。けれど、私たちの体を切り裂く刃物や体を貫く鉛の玉を持っているわ」
「どうして人間は僕たちを殺すの?」
「私たちの骨を使って、いろんな道具をつくるからよ」
「食べるとかじゃなくて?」
「食べることもあるけど、たくさん殺される理由とは違うのよ」

 お母さんは首をあげると、遠く水平線に浮かんでいる島を見ました。
「あの島には人間がいるから絶対に行っては駄目よ」
 クウは長い首を縦に動かして「うん」と返事をしました。
 人間に会ってしまうと、この島の場所を知られて、仲間たちまで殺されてしまいます。

 ――人間はこわい生き物。
 僕たちを食べて、骨を道具にしてしまう生き物。
 クウは考えながら、すこしずつ眠くなってきて目を閉じます。
 お母さんの心臓の音と、打ち寄せる波の音がクウの子守唄になっていました。

 ――人間はこわい生き物。
 クウは強いお父さんがいるなら大丈夫と安心していました。
< 2 / 27 >

この作品をシェア

pagetop