水平線にとどく唄
 海賊たちの船は進みます。どんどん島が離れてクウだけではなく、王様とシャロンも元気をなくしてしまっていました。
 ――これからどうなってしまうのだろう。
 クウは不安でこわくてなきたくなります。
 それでも、シャロンがいるので心配をかけさせたくないと思い、我慢しました。

 縛られた王様とシャロンの前で、海賊たちは盗んできた者を品定めしながら、お酒を飲みはじめます。
 そして、海賊のひとりが王様に顔を近づけると、お酒の臭いがする息を吹きかけながらいいました。
「隠した優竜の居場所を教えたら、あんたもシャロン姫も逃がしてやろう」
 その海賊の言葉に王様は首を横に振りながら答えます。

「知らぬ。優竜は病死した妻が愛した、人とともに歌を歌う竜。知っていたとしても、おぬしたちに教えるようなことはせぬ」
 その隣でシャロンが目から水を流します。
 クウはシャロンが、お母さんのことを思い出しているのだと何となく感じました。
 ――どうしたらシャロンと王様を勇気づけることができるのだろう。
 クウは必死に何をしようかと考えると息を吸いこみました。
 シャロンが目から水を流した時にクウがしたこと。
 クウは歌を歌えば、シャロンと王様が笑ってくれると思ったのです。

 優竜の特徴的な声が響き渡ります。
 その歌声を聞いた海賊たちは驚いたように目を見開いた後、すぐに目を閉じて聞き入り、クウの歌声に合わせて鼻歌をはじめたりしました。
 それを見た海賊のひとりが銃を手にすると、空に撃ちます。
 銃声が響き渡るとともに、ハッとした海賊たちは歌をやめました。

「お前たち、優竜に騙されるな。こいつは俺たちの金になるんだぞ」
 けれど、歌がとまることはありませんでした。
 シャロンがクウの歌に合わせて歌い続けていたからです。王様も歌っています。
 そして、その歌は水平線にとどくとともに、たくさんの歌声を呼び寄せていました。
「お父さんだ。お父さんたちがきてくれた!」
 クウが気づいて見た海には、クウのお父さんと仲間たちがいたのです。
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