水平線にとどく唄
 それはクウがいつもどおり、のんびりと海藻を食べていた時でした。
「嵐がくるぞ。みんな岸にあがれ」
 クウのお父さんが黒い雲を見つけて仲間たちに知らせます。

 黒い雲は、あっという間に大きくなると、雷をならし、大粒の雨を降らせました。
 こんな嵐ははじめてです。
 大人たちが子どもを守りながら岸にあがらせますが、クウは陸から離れた場所で遊んでいたために、戻るのが遅れてしまいました。

 いつもならすぐに戻れるのですが、今日の嵐はとても強く、クウは波にのまれて溺れかけます。
 大きな体と長い首なので、なんとか顔を出すことはできますが、とても立ってはいられません。
 一生懸命がんばっていたクウも、波に足を取られて転んでしまいました。
 その途端に、沖に流されてしまいます。

「お父さん助けて!」
 クウの叫び声に気づいたお父さんが、すぐに海に飛びこんで助けにきてくれます。
 けれど、クウが伸ばした手はお父さんに届きませんでした。

 暗闇で染まった真黒な波がクウに襲いかかります。
 もう助からないかもと思いながらも、クウは長い首を伸ばして必死に空気を吸いこみました。
 顔さえ沈まなければ息ができます。お母さんと友だちが応援してくれる声も聞こえます。

 ――がんばれ僕。
 必死に自分を奮い立たせていたクウですが、流されていくにつれ、みんなの声が小さくなっていきました。

 ――こわい。助けて。僕は一体どこに行ってしまうのだろう。
 波に逆らうこともできないまま、クウは嵐がおさまるまで遠く遠く流されていきました。
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