水平線にとどく唄
 昨日、あれほど荒れていた海は穏やかな波の音をたてています。
 ポカポカあたたかくて気持ちがいい朝の海です。
 木が揺れる音と小鳥のさえずりが聞こえてきます。

 嵐の海にのまれたクウは必死になって泳いで、何とか陸にたどり着くことができました。
 けれど、真っ暗だったので自分がどこにいるのか、わからなかったのです。
 そして、クウはそのまま寝てしまい、朝を迎えていたのでした。

「ここはどこなんだろう」
 目を覚ましたクウはまわりを見ます。
 けれど島にこんな場所があったのかなと不安になってきました。
 声をあげようと思ったのですが、昨日の夜に人間の話を聞いたばかりです。

 ――人間が近くにいるかも。見つかったら殺されてしまうかもしれない。
 そんなことを考えると、こわくて助けを呼ぶこともできません。
 クウが動けないでいると、歌声がどこからか聞こえてきました。

 ――誰の歌声なんだろう。
 そう思いながら、クウは長い首を伸ばします。長い首を伸ばすと遠くまで見えるからです。
 すると、大きな大きな石造りの家が見えました。

 高い塀や水の堀に囲まれている立派な家です。
 クウはその時は知りませんでしたが、それはお城でした。
 歌はその大きな家の窓から聞こえてきていました。
 そこにはクウが見たこともない生き物がいました。すぐにクウはわかりました。

 ――あれが人間なんだ。と。
 ――人間はこわい生き物。
 けれど、クウは仲間とは違う美しい声にひかれて、人間を見つめ続けていました。
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