水平線にとどく唄
 クウは何がおきたのかわからずに、シャロンの両目から出てきた水をなめました。
 海の水のような味がして、クウはなぜか切なくなってしまいます。

「なぐさめてくれてありがとう。私には同じ年の友だちがいないから、クウに会えてよかった」
 そう言ったシャロンの目から出る水は、すこしずつ増えていきます。
 それがクウには不思議でつらく感じました。

 ――どうしたらシャロンは笑ってくれるのかな。
 僕はシャロンにいいことをしてもらえたのに。
 何かお礼がしたいと思ったクウは必死にお礼の方法を考えると、息を吸いこみました。

 人間には言葉が通じません。
 それならと思い、クウは歌いはじめました。
 優竜の特徴的な声が響き渡ります。

 クウが歌い出すとシャロンは驚いた様子で顔をあげました。
「私が歌っていた歌……クウ、覚えてくれたのね」
 クウの歌に合わせてシャロンも歌います。
 その歌に合わせるように船に乗っている人間たちも歌いはじめました。
 優竜と人間の歌はしばらく続きました。

 歌い終わるとシャロンは、カバンから奇麗な布を取り出しました。
「クウ、これをあげる。私とクウがお友だちだというしるしよ」
 花の香りがする赤い布です。
 首にかけられたクウは、何だか自分がヒーローのようになった気がして嬉しくなりました。
 首を上下に動かして喜ぶクウを見て、シャロンがクスクスと笑います。
 シャロンの目からは、もう水は流れていません。
 クウがまた見たいと思っていた笑顔があります。
 ほっとしたクウは家がある島に体をむけました。

 シャロンと長く話していたくても、お父さんやお母さんが心配しているはずだからです。
 つらいことですが、これでお別れするしかありません。
「クウ、元気でね」
 それでも後ろから聞こえるシャロンの声と、首にかけられた赤い布がクウの寂しさを払う、大切な宝物となっていました。
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