秋空恋模様

週末。既に何回か訪れたことのある昴の家に来ていた。相変わらず大きな家。両親がお偉いさんらしいけど詳しくは知らない。玄関には昴の姿があった。
「久しぶりだな、楓」
私の姿を見つけて嬉しそうな笑顔を浮かべる昴。そんな風に笑わないで…どうせこれから別れ話するんでしょ?聞きたくないよ。
「どうした?何か不機嫌そうだけど」
思っていることが顔に出ていたのか、昴が眉を顰めて私の顔を覗き込む。
「不機嫌なんかじゃないよ」
そう言いながらも顔を背けてしまう。言うなら早く言ってよ。
「なんだよ、可愛くねぇな」
声音からしてからかってるのはわかる。わかるんだけど……
「どーせ私は可愛くないわよ!何なの!?私を呼んだのだって別れ話なんでしょ!?覚悟、出来てるんだからさっさと言いなさいよ!そっちが言わないなら私が言う!別れよう!さよなら!」
早口に告げて私は走り出した。こんなこと言うつもりなかったのに…
感情に任せて発してしまった言葉の羅列に今更後悔した。涙が止まらない。
「おい!待て!」
昴が追ってくる。嬉しいけど、やめて。『さよなら』なんて聞きたくない。
涙で前が見えていなかった私はいつの間にか道路に飛び出していた。
「バカ!!早く戻ってこい!!」
昴の声にハッとしたが時すでに遅し。トラックが真横まで迫っていた。
ドンッと跳ね飛ばされる音がしたところで私の意識は途切れた。
目の前で大切な人が車に轢かれるところはかなり衝撃的だった。
「楓!!!」
すぐに駆け寄って息があるか確認した。あぁ、生きてる。よかった…すぐに救急車を呼ばないと。俺が電話をかけようとしたら、楓の目が開いた。
「すば、る…」
今にも消えてしまいそうな声で俺の名前を呼ぶ。ダメだ、死ぬな。俺を置いていくな。
「楓、待ってろ。今、救急車呼ぶから」
彼女の小さな掌を握りながら電話をかけた。楓を見るとまた目を閉じていた。
救急車が到着するまでずっと手を握っていた。離れていってしまわないよう。頼むから、楓を助けてくれ…誰でもいいから楓を…

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