秋空恋模様
病院に運ばれた楓。医者からは『打撲程度で済んで奇跡ですよ。車のスピードが速かったのでしょう。徐行していたら間違いなく引き摺られますから』と告げられた。
いつ意識が戻るのかと尋ねれば『もういつ戻っても可笑しくないんですけど…彼女の気持ち次第ですね』と。
やっぱり俺とのやり取りのせいだろうか。こんなことになるくらいなら早く言うべきだった。バイトが忙しかった理由を。
だって…指輪を買うために金を貯めてたんだから。サプライズで渡してプロポーズしようと思ってたんだ。連絡を取らないようにしていたのは、うっかり話してしまいそうだったから。だけど、それが原因で楓を不安にさせてしまった。…泣かせてしまった。挙句車にまで轢かれて…
「ごめん、楓。本当にごめん。頼むか
ら目ぇ覚ましてくれ…そしたら今度こそ伝えるから…俺の気持ちを」
病室で小さな掌を握り締め、今は届かないだろう言葉を紡いだ。早く君と話したい。君の声を聞きたい。小さな身体を抱き締めたい。キスしたい。こんなにも人を愛せるんだっていうことに気付かせてくれた君は俺の大切な大切な人。
外を見れば星が煌めいている。俺はポラリスに誓おう。永遠に楓を愛すと。誓うから…誓うから楓を連れていかないでくれ。 「楓。楓…早く―」
気が付くと星が煌めく場所にいた。ここが現実ではないことにもすぐ気付いた。
そこは星だけが煌めく世界。不思議な感覚だ。周りは真っ暗で何もない場所なのに星空が広がっているだけで安心する。
そういえば私は車に轢かれたんだっけ?ただ辛うじて死んでいないことはわかる。自分のことだから。けど、これから死ぬのかもね…
そうだ、昴は?ずっと手を握っていてくれた。何度も何度も名前を呼んでくれた。昴は私のこと…まだ好き?少しは期待してもいいの?
貴方はこんな私のことを認めてくれた最初の人。零れてしまった涙を拭いてくれた最初の人。好きで好きで仕方ない人に巡り会えたの。だから…まだ死にたくない。貴方に会いたい。もし、もう一度会えるのなら今度こそは言おう。『愛してるよ』って。別れようなんて言ったことも謝らなくちゃ。私が一人で決めていいことじゃないからね。
『楓。楓…早く―』
昴の声が聞こえた。帰らなくちゃ。昴が待ってる。別れようって言われても受け止めよう。昴が幸せならそれでいい。