殺人と笑顔と温もりと
野菜とかお肉とか
詰まった袋を握りしめていると
野次馬の中に紛れ込む
1人の人に目がいった
鉛色の空の下
佇んでいる
黒髪の男性
眼鏡をかけているようだ
暫く男性は
『keep out』と書かれた
黄色いテープを見つめていたが
やがて
興味を失ったかのように
人混みに踵を返して
どこかへ行ってしまった
離れていたから
よくは見えていないけど
何故だろう?
あたしには
男性の周りだけ
空気が違うように見えた
まるで―――
「事件が起こるのを
知っていた……?」
あたしの呟きは
野次馬の声に消えた